TsujiTasukuの日記

太鼓奏者の日々の雑感

2019/8/21〜9/3 USA WS tour にて

 今回のアメリカへの旅の目的は、オハイオ州ダブリンのDTG(ダブリン太鼓グループ)結成15周年記念コンサートへのゲスト出演と各地でのWS(ワークショップ)。

 

ダブリン太鼓は15年前オハイオ州の芸術協会のレジデンスプロジェクトで、師匠が立ち上げから指導をし、プロジェクト後も地元の中学校(デイビスミドルスクール)のスザンヌ先生を中心に今も継続している団体。

 

今回は同じく15年前に同時期に立ち上げから師匠が指導している栃木県益子町の益子天人疾風の会の有志も一緒にダブリンへ。

 

この2団体は要は師匠が指導した兄弟グループであり、ダブリン市と益子町は太鼓がきっかけで友好都市として繋がり、今回の催しは街同士の国際交流でもある。

 

今や北米最大の学生グループに成長したDTG。

全く異文化の太鼓が地元の文化として根付き、子どもたちが懸命に練習に励んでいる姿は、文化の力のを実感する光景だ。

 

コンサートは大盛況で、OB・OGを含め最後は総勢104人での大合奏となった。

 

受け入れを含め、今回もDTGの保護者や関係者の皆様に大変手厚いおもてなしを受けた。子どもたちだけでなく、周りの大人も一丸となって15周年記念公演は無事に幕を閉じた。

 

その後はフィラデルフィア、NYとWSクラスを各所で開催した。

 

フィラデルフィアは地元の協太鼓がホストになってくれた。映画のRockyで有名な街だが、そんな地にも太鼓を愛好する人々がいる。ジョースモールもこの地の大学で教鞭をとっている。

 

そしてNYではコロンビア大学、渡辺薫太鼓センター、僧太鼓と複数のクラスを行った。行く先々で歓待していただき、本当に有り難く、またしっかりせねばと身の引き締まる思いだ。

 

NYではDTG卒業生の光太郎君と父上のイサオさんが全てのコーディネーションとサポートをしてくれた。この場を借りて山川家には心から感謝申し上げます。

 

 

 アメリカの太鼓を取り巻く事情は最近の日本とあまり変わらない様に感じた。(もう随分前からそういった様子だが)様々なスタイルが混在し、またミックスされており、地域性を離れた大衆芸能として広く伝わっている。

 

僕ら日本人が思うほどアメリカでは日本らしさという様な話題は出てこない。光太郎君曰く、「アメリカでは日本というよりもアジア全体で印象が一括りなので、和太鼓もアジアの文化として認識されている感じ。」と。

 

特に日本の文化というより、アジアの文化との繋がりを感じるものとして一般の愛好家には太鼓が機能している様だ。

 

その一方で太鼓は日系コミュニティーの文化の象徴としてアメリカ社会で発展してきた歴史がある。

 

マイノリティーが社会的繋がりを文化を通じて共有するという様な形は、アメリカにおけるジャズの歴史にも似ている気がする。

 

戦後日本で広まった新興芸能としての太鼓と少し事情は異なるが、相互に影響を受け合いながら今日に至っている。

 

現在の日本もアメリカも太鼓は意識も技術も全体的にアマチュアリズムが支配する芸能だ。我々の様な音楽・表現芸術的な太鼓を志向するプロフェッショナリズム(制作的な事も含めて)は、一般の認識からはとても遠い所にある。

 

教育や楽しみの為に、社会との繋がりのためにある太鼓と音楽・芸術・職業としての太鼓という意味合いの異なる物が横並びになって混然一体となっている。

 

太鼓を職業にすること、ましてやプロ演奏家としてやっていく事は並大抵ではない。これは今回NYでお世話になった元鼓童の渡辺薫さんとも同様の話題が出た。

 

世界中に和太鼓が広まった割には、クラシックやジャズの様な高いレベルの演奏家が次々に生まれるといった事にはなっていないのが現状だ。

 

そして、現代の日本の太鼓が発展した経緯や音楽的な変遷をしっかり把握している演奏家が、プロと称して活動する人々の中でもほとんどい居ないのも要因の一つだろう。これはレッスンプロ的な指導活動をしている立場の人々も同様である。

 

そういった認識が無いまま、ただただ演奏している、あるいは夫々の流儀で技術指導をしているといった具合だ。知識が全てではないが、自分が今何をやっていて、大きな流れの中でどこに立っているのかという自覚は、他の音楽の世界では、演奏家から当然語られるべき事だと思うし、他分野ではその為の体系的な学問もちゃんと発展している。

 

特に他人を指導する立場の人間には不可欠と言って良いだろう。

 

またそういった知識が未来の手掛かりになるだろう。

 

演奏技術だけではなく、一体自分が何者か、何をやっているのかという事を他人にきっちり説明できるのが一流の演奏家だと思う。

 

太鼓を取り巻く一般認識と経済効果の無さもあるだろう。しかし、どんな世界にも超一流はいるのだから、思い描く理想を目指して突き進むしかあるまい。

 

そういった意味では未整理で未開拓な分野で、

新しい可能性がまだまだある分野とも言える。

 

この過去5年で16ヶ国で公演し、世界に広がった様々な日本の太鼓の在り様を見てきた。

 

そして、太鼓を通して世界を見てきたが、

未だに状況はあまり進展していない様だ。

 

願わくば太鼓を通してそういった世界の認識をほんの少しでも押し広げられる様になりたい。

 

そう更に強く思う旅になった。

 

2019/9/2 機内にて